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カール・レイモン氏が寄贈した函館公園のライオンについて(川島茂裕「大名領国を歩く」吉川弘文社)

井伏鱒二氏の小説のタイトルではない。
しかし、この一論文については、タイトルのみならず井伏鱒二的事態が想起される。
この論文集は、「中世近世移行期を中心とする研究会」のものだし、事実他の論文は、戦国時代や江戸時代の地味ながら堅実なものばかりである。総題の「大名領国を歩く」にしてもそれを表している。しかしながら、函館公園のライオンが処分されたという話は、太平洋戦争下での出来事であり、レイモン氏が函館市にライオンを寄贈したのも日中戦争下(1938年)にすぎない。いずれにしても、もろに近代の出来事である。論文集の中で明らかに場違いなこの論文が採用されたにあたっては、おそらく、これが永原慶二氏という方の古希を祝って発案されたものという事情による人間関係の濃淡が関わっているに相違ない。またもう一つ気になる点は、奥書に、他の著者13名中12名が大学の教授助教授講師であり、残りの1名も行政に関わる役職が記載されているのにも関わらず、当の川島氏のみだけ、何の肩書きも載せていないことである。肩書きどころか、生年日すらない。これは、一体どういうことか。川島氏は、この研究会(永島慶二先生を囲む「駒の会」)の中で異色であるようだ。しかし、分かるのはここまでであって、結局、この論文が掲載された理由は読者には不案内のままである。ただ、古希を祝う論文集、ということからして、誰もが善意であるにも関わらず、あるいは誰かの小さなこだわりが、思いも寄らない事態を惹起するという井伏鱒二的世界の予感のみが色濃く漂うのである。
最後に、川島氏の論文の一部を引用して、この感想を終わりたい。ここは、川島氏が、ライオンの命名が戦意発揚に果たした役割について説明しているところである。
「第三に、ライオンにのみ名前が募集されたという点である。当時、レイモン氏が寄贈したライオンの他に、函館公園にはクマも飼われていた。レイモン氏がライオンとともに寄贈したクマか、もともと函館公園にいたクマかは不明な点があるが、クマ舎もすでに新築・完成していた。そのうちのライオンのみに名前が募集され、命名式が大々的に実践されたのである。この点を函館市長は、「しかし名のない熊君は僕等には名がない、クマったクマったといっています」と式辞で述べている。」
by isourou2 | 2011-02-22 21:56


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