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こころのレッスン~あなたと私の中にある大切なもの(草加登起夫 文芸社)

待望の草加さんの本だ。待望といっても、草加さんが本をつくるなんて思っていなかった。しかし、待望というのは、こういう人が世にいるということが少しでも知られてほしいと思うからだ。
草加さんは、知的な遅れのある人たちのための学校に勤めている。一度、草加さんに誘われて学校の文化祭を訪れたことがある。この本に収められていることのいくつかは、そこでの草加さんの展示で見たと思う。(だいぶ昔のことでよく覚えていないが、、、)
この本に収められているのは、草加さんの学校の人たちのこだわりのある行動や不思議な行動である。それを真似してみることを草加さんは「こころのレッスン」と呼んでいる。

草加さんとの奇妙な出会いのことを書いておきたい。たぶん、草加さんのことが多少なりとも伝わると思う。
10年前くらいに、ぼくはテントを張った場所で芝居(というかパフォーマンスか)をしながら自転車で旅をしていた。出発したときは10人くらいいたけど、1ヶ月を過ぎる頃には2人だけになっていた。その頃は、鵠沼海岸というところで、テントを張っていた。話はそれるが、ぼくらがテントで泊まっていた浜の近くには、偶然ニエアルという中国人のリリーフ像が立っていた。ニエアルというのは、中国国歌を作曲した音楽家だが、この鵠沼で泳いでいた時に若くして溺死したのだった。そのために、日本ではまるで無名の音楽家のリリーフが立っているのだが、それは落書きされるのを防止するために分厚いビニールに包まれていた。近年に打ち捨てられていた像を新しくしたらしいが、その経緯にも、落書きにも政治的な背景がありそうだった。それで、ぼくたちは、ニエアルの音楽祭をリリーフの前で準備していた。そんな時、近くの駅前の小さなギャラリーで絵画展のオープニングパーティをやっていた。ぼくらは、腹が空いているから何か食べ物がありそうだ、という理由によってパーティにちん入した。サンドイッチとかをパクついているうちに、テントで泊まっているということが知れて、そのまま遊びにくることになったのが、草加さんだった。(もう一人は、料理マンガで有名なビック錠さんだった、、、)そして、4人で魚を浜で焼いたりして食べたのだった。酔っぱらってもいた草加さんにテントに泊まりたいとお願いされた。そして、言葉どおり実際に泊まった。たしか、ぼくらが寝ている朝早くに、そこから出勤して行ったのだった。

それも、草加さん流の「こころのレッスン」の一種だったのだろうか、、、中年の半ばをすぎたおじさん(失礼、、あの頃はぼくもまだ30歳くらいだったので、そう見えました)である草加さんの物事に対する柔軟な受けとめ方というものに、じんわりと効いてくるボティブローのように打たれたような気がした。ちょっと何かが分からないが、すごく手応えも同時ある、、そういう印象がありました。それから、草加さんの個展に行ったりもした。ウロ覚えですが、寝釈迦の写真があったような、、、。机と机を平らの面で重ねて、その隙間がどう、、、とかいうのもあったような、、、。すいません、ウロ覚えですが、なんだか微妙な、しかし本人にとっては広大かもしれない世界の追求、そんな感じだったような気がします。そこでも、ぼくは分からないけど手応えがあるという印象を持ったわけです。

そういう草加さんだからこそ、知的に遅れていると言われている人たちの行為を崩さない形で、拾い上げることが出来るのです。草加さんは彼らの先生でもあり彼らの弟子なのかもしれませんが、同じ方向を向いています。ぼくなどは、知的に遅れていると言われている人の作品をみると、かなわないなぁ、と思い、どこか尻尾をまくところがある。その集中力、「ぴったり」な感じ、かなわないところがあるわけです。
巻頭に、置かれているエピソード。保育園の昼寝の時間に、眠れない子の横で保母さんが横に黙って一緒にいる、そして二人とも知的な遅れがある。なぜ、このエピソードが巻頭にあるのか、、草加さんの学校の話でもなさそうだし、、、しかし、それは同じ方向を向いている草加さんの姿勢(前提)を暗示させたいからに違いない。
その姿勢で、見えることと見えないこと、見えないけど確かにあること、ぴったりなこと、そういうことを書いています。どこをとっても平易な文章ですが、これは同時に難しい本でもあります。簡単ではないです。だからこそレッスンも必要なのでしょう。
最後に引用。
「大切なものは、すでに決まっていて、みんなが、それを大切にしているのだと思っていました。でも大切なものは、何も決まっていないのです。あなたが、それにかかわり、つき合っていくことのなかに、大切なものは育つのです。大切なことは、最初は見えないのです。そこに関わり続けた時間の中に静かに育っていくものなのです。」
by isourou2 | 2011-08-22 14:26 | テキスト


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