柄谷行人政治を語る(図書新聞 2009)

柄谷行人という人は、空疎に耐えているという感じがする。表現に向かう人はだいたいそんなもんなのだろうが、柄谷氏には索漠さを強く感じる。

ずっと以前に読んだ柄谷氏の本に「隠喩としての建築」というのがあった。不完全性定理や、ドゥルーズのリゾームとかの明晰で難しい話がメインだったと思うけど、その中に、エッセイもあって、それも、催眠術のサークルに行った話だった。なんで、この本にこのエッセイが入っているのかが分からず、でもそれが一番面白かったから印象に残っている。(注)

「政治を語る」は、3時間くらいで読んだ。インタビュー集だし、厚くもないので、割とスラスラと読める。ぼくにとって発見的な考えさせられる言葉もいろいろとある。
しかし、読んでいる途中から気になって、読んだ後に印象にあるのは、そのことではない。

本の中に3枚の柄谷氏の写真がある。
1978年。表情には不敵さと優越感と若さがある。横顔である。
1982年。端正な印象がある。正面を向いているが、目はどこを見ているか分からない。
2008年。年をとった。正面を向いて、目もカメラを見ているが、どこかぼんやりした感じがする。左右の目の印象がちがう。幾分厳しいもしくは疲れた感じである。

柄谷氏は、氏を評価したポールドマンというアメリカの文学批評家が死亡したので、「想定していた唯一の読者がいなくなったので、この仕事(体系的な理論)をついに放棄しました。」と語っている。
また、中上健次に対して「彼は癌でなくなった。それから、文学と僕の絆はなくなった気がしますね。」と言っている。
また、何度か自分の性格として「受け身」「引っ込み思案」と語っている。それも、対外的には行動的だと見られた湾岸戦争時の文学者声明やNAMの時のことを指して言っている。

柄谷氏が、この本でも、様々な形で「反復」を言う。1990年代は1930年代の反復だ、とか明治と昭和は対応している、とか。そういう話を以前読んだ時に、なんだかピンとこない感じがした。まぁ、そうもいえるのかなとは思ったけど。この本では、90年代は新自由主義になったので見込みがちがったと言っているが、60年周期ではなくて120年周期だったと訂正して、反復しているという話は撤回していない。
しかし、まぁ話としては面白いけど、、。というもので、あんまり本気で言うのもどうかと思う。ある部分を切り取れば反復しているように見えても、無数の変数が関わっているので、決して同じにはならない。歴史というのは、一回性のもので、無限の必然の束(それは偶然ということだが)のはず。そして、偶然という認識がなくなることは、病理であると共に、未来の予測ができることになる。そのため、反復しているというのを強調すると、それはオカルトの世界に近づく。
オウム真理教が、柄谷氏の年表に基づいて1999年と昭和16年(真珠湾攻撃)を照応させて、サリン事件を起こしたと、上祐氏が認めたという話を柄谷氏はしている。

特定の個人への愛着と受け身であることとオカルトへの傾斜というのは相互に関係している。
おそらくは、そこが柄谷氏の素質に近い場所なのだが、しかし、そこから出ること、が氏の哲学的批評的試みの機動力になっているのではないか。しかし、行動的であることが受け身であること、「天の声」に従う時に行動的であること、そのような場合、その外へ出ることは困難だろう。氏の明晰さを持った格闘(形式化の問題)は、そのような素質の構造に対してのものでもあるだろう。

このインタビューの最後で、繰り返しデモに期待を寄せているが、2011年9月11日の素人の乱を中心とした反原発デモで柄谷氏はスピーチをしたそうだ。また、デモ時の逮捕者に対する不当を訴える記者会見もやったということだ。それを聞いた時、意外な感じがしたものだが、これは柄谷氏にとって何度目かの「外に出る」行為なのかもしれない。

(注)ネットで調べてみたら「ある催眠術師」というタイトルだった。講談社学術文庫にする際には、省かれているので、単行本にしか含まれていない。
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by isourou2 | 2011-11-05 00:52 | テキスト


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