物語 近現代ギリシャの歴史~独立戦争からユーロ危機まで(村田奈々子 中公新書 2012)

ギリシャの近現代史。様々な哲人や巨大な遺跡、そして民主主義の発明でその名を輝かせる古代ギリシャでも、経済が破綻しヨーロッパの鬼子となっている現在のギリシャのことでもない。どれくらいの人が関心を持つだろうか。
また、正直言って、日本に住む自分にとっては、その古代ギリシャにしろ、今のギリシャにしろ、それほど身近な存在ではない。ギリシャに行く前に、自分の本棚を探してみるとギリシャ哲学の本が3冊、経済破綻に触れたものが1冊あったが、いずれも未読。教養として押さえておくべきだろうが、切迫した興味の対象ではなかった。
だから、ギリシャ(アテネ)に5月に2週間ほど滞在するという予定がなければ、この本に手を出すことはなかっただろう。
しかし、、、面白い。著者の視点が確立されており、歴史を語るとはこのようなことを指すのだと感得した。このタイトルにある「物語」は(シリーズものであるから深い意味がないかもしれないが)、近代のギリシャという国がどのような物語を編むことによって国としての統一体を作ってきたのか、という問題設定への示唆があるのだろう。また、著述という統一体を作ることは、ある視点からの物語であるという意識を明示するものでもあるはずだ。つまり、歴史家が歴史を語るというのは、ある物語に対する批評的な物語である(べきだ)。
だから、この本は、「物語」という言葉で通例想定するような<やさしい><噛み砕いた><子ども向け>とかいう内容ではない。

と、ここまで書いて間が空いてしまった。そのため、これから内容に触れようとしていたのだが、それはちょっと難しい。
ただ、このギリシャという小国がヨーロッパの大国との間で様々な駆け引きすることと表裏一体に自らのアインディンティティを模索・確立していく様子が描かれている。特に、言語をめぐる話には啓発されることが多かった。なので、序章の後に第三章「国家を引き裂く言語」から読んで正解だった。
そのような大国との関係・独自性の模索、というギリシャの歴史の流れは、借財をディフォルトしてEU離脱するのかどうかで全世界の注目を集めているたった今現在まで脈々と続いていることが分かる。

ギリシャ滞在の感想を少し。
帰ってきてから、1ヶ月がたってのギリシャの印象は、「途方にくれている」というものだ。街には、乞食をしている人が多く、電車に乗れば必ず、自分の窮状を訴えながら小銭をもらう人が現れる。その時、その声を耳にしながら、乗客たちは少しだけ凍り付き、彼らがあきらめて過ぎていくのを待っている。広場では、難民が寝泊まりをしている。しかし、広場にはトイレも水もない。彼らは、アラビア語で訴えるが、その意味はギリシャ人には分からない。炊き出しには、女の人や小さな子供がかなりいる。この現状をフォローするために、動いている人たちはいる。でも、多くの人は、どうしてこうなってしまったのか、分からないだろう。政治家が悪い、私腹を肥やしている、公務員が多すぎる、と理由をあげても、なお納得には至らない。そして、どうすればいいのか、はなおさら分からない。インテリそうな人に、EUを離脱する方がいいのか、聞いてみたが、やっぱり明確な答えをする人はいなかった。難民排撃を訴えるネオナチなど極端に分かりやすい主張の政党に人気が集まり、それらしい若者が電車でシュプレーをあげる。やはり、乗客は眉をひそめてそれを見ている。そのような状況の中で、途方に暮れている、そんな印象を持った。
人だけでなく建物も、廃屋になっても建築途中でも、費用がなくて町中でそのままになっている。
グラフィティはアテネはものすごく豊富にあるが、それを見る人に熱意がない。つまり、消す熱意も共感する熱意もないように感じた。放置されているのだ。野良犬がうろつき、子猫がたくさんいる。
もちろん、その下では旅行者には見えないちがう動きがあり、それが形になるまでの過渡期なのかもしれない。嵐の前の静けさということもある。きっとやってくる大きな変動は、前述したように、ヨーロッパの小国としてのギリシャのアイディンティティの模索の歴史が重要な因子となることは間違いないと思う。
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by isourou2 | 2015-07-05 23:50 | テキスト


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