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1961年冬「風流夢譚」事件(京谷秀夫)(平凡社ライブラリー)

この本は、まず、晩聲社から1983年に出た。なつかしい出版社だ。中学や高校のころ、よく読んでいた。表紙のデザインがなんか、文字が羅列されて鮮烈(ロシア構成主義っぽいのか、よく分からないが)で、だいたいは左翼的でとんがった本を出していた。中学のころは、天皇・統一協会・ポルポトが3大関心事で、そのへんの本もけっこう出していた。この本は読んでないと思う。深沢七郎は、近年になって、好きになってきた作家だ。この事件のあと、死ぬつもりで(殺してくれる人を探して)旅にでた、そのエッセイを読んだことがある。打ちのめされて、腑抜けのように風に流される草花のような深沢氏(それは、この人の持ち味のひょうひょうとした、根無しな感じが極まった感じでもあり)が、不良に会い、なにか励まされたりする話だった。と思う。この本のなかで、いくつか、この事件の深沢氏の動向が記されている。
「怒った手紙やハガキがたくさん来た。北海道からも九州からも来た。~ひまな時に読んでいるけど、おもしろい。激励や慰めのも来たけど、これはつまらない。~「なんたる無礼者ぞ いさぎよく自決して罪を天下に謝せ 問答無用 一家抹殺を期す 天誅を受けよ」というのもある。うまい文章だ。ぼくはふつうの人が貰えないようなハガキを貰って感動した。恨んでやるとか呪ってやるとか、とても純情だと思う。純情の人のラブレターだ。20年も前に別れた女の人からもらったラブレターのような気がする。住所が書いてあれば、僕は返事を書きたいぐらいだ。だけど、一緒に住んでいる親類たちが気の毒だ。みんなでご飯を食べているときも、カタンと音がすると、みんな青い顔になる。隠れてくれ、逃げてくれ、というから、ズッと隠れてるけれども、僕はみんなのことが気になってしょうがない。どうしているか心配でたまらない。「風流夢譚」で亡命してるのだから風流亡命だけど、亡命っていうものは放浪と同じものだ。」(朝日ジャーナル1961年一月)これは、まだ事件前のインタビューだ。インタビューとなっているが、これは深沢氏の文体そのままだ。ともかく、これは、立派な言葉だ。感心した。自分のスタンスをキチンと言っている。ぶれてない。すげえな、と思った。激励や慰めのも来たけど、これはつまらない、なんて、なかなか言えない。それが言えるだけの、内面をつくってきたのだし、それが許されるだけの外面をつくってきたのだ。事件(右翼の少年が、雑誌社の社長宅を襲い、妻を重傷、お手伝いさんを殺害)の後の、一週間後、深沢氏の記者会見が行われた。その記事の中での深沢氏は「額に刻まれた大きな皺に苦悩の色が濃い。ホホを伝わって落ちる涙をぬぐおうともしない。とても自分の足で歩けないほどクタクタに疲れていた。」。しかし、「いつ死んでもと思い風流夢譚の続編を清書しています。」「この事件で筆を折るのか」という質問には「折る気になれない。」と答えている。著者の推測では、この記者会見の一番の眼目は、雑誌掲載に社長は反対していた、(それは社長の身の上に続く危険を避けるため)ということだった。しかし、そうすると、編集長に掲載の責任が負わされることになり、それは深沢氏を苦しめたのではないか、と推測している。ともかく、続編を書くという、深沢氏はやっぱり立派だと思うが、ともかくも、このように独特な立ち位置の人がその独自性を維持できなくなるところに追い込まれるのが、ぼくは、本当に陰惨なことだと思う。しかし、この強靭な作家は、その後も、独自な作品を書いていくのであるが。(続編は発表したのだろうか)

この本には、この事件にまつわって、様々な人物が活写されていて、そこも魅力になっている。この本は、20年の前のことを、当時の記憶と当時の資料だけで、筆者が描いている。それなのに、ものすごく、濃密な空間が本の中にある。それだけ、この事件は濃密に作者の念頭から去らないのだという、その印象が強く残った。
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by isourou2 | 2007-01-17 18:28

「神国日本」佐藤弘夫(ちくま新書)

この著者は、中世の専門家で、本の内容は、やはり、中世的な神国観が中心になっている。しかし、この刺激的に面白い本の中で、衝撃を受けたのは、まず、以下の古代律令制国家についての文章である。
「日本古代において、「国家」という言葉は、通常天皇個人の身体を意味した。」
「(日本書紀で)「国家」が「みかど」と読まれていたことにもうかがえる通り、国家はその唯一の代表者である天皇そのものを意味する概念だったのである。」
これは、自分にとって、とても気になることなのだ。なぜなら、現在のホームレス生活の中で、「身体」と「所有」の関係が、自分の問題になっているから。この著者は、律令国家において、国家は国土や人民のことではなく、天皇の身体、だといっているのであるが、ぼくは、天皇の身体と国土、が不分明だったのではないか、と考えてみる。所有をする、というのが、まずは、自らの身体を意識するところから始まったのだとすると、国家、というのを、自分(天皇)の身体の延長としてしか考えられない、そのような所有の観念の段階というのがあったのではないか、と考えてみる。そのような、身体の延長を可能にするのは、神、という考えだったのではないか。
「かつて、古代の天皇は国家の唯一の代表者であるとともに、「現御神」として人々の上に君臨する存在だった。この天皇を支えるために、大嘗祭をはじめとして、天皇が神の衣装を身に着けるための舞台装置が幾重にも設けられた。」
強権的な律令制国家が立ち行かなくなり、天皇の権威も落ちてくると、伊勢神宮を中心にした神々の構造も崩れ、寺社も荘園(土地)を獲得する競争をする。そして、その土地は神領や仏土として、国家からの課税を逃れ、住民に対する支配を円滑にする。
「こうした「仏土」「神領」の論理が神仏の権威を利用して寺社の支配を正当化するための、巧妙なからくりであることはすぐに理解できる。しかし、当時はまったく事情がちがった。中世人にとって、神仏の存在は、決してたとえ話でも空想の産物でもなかった。」
ただ、この時の所有は、神仏の身体とは、関わりを持っていない。だから、この段階では、すでに、所有は身体とは、切り離すことが出来る概念になっている。中世後期において、彼岸観念が縮小し、現世的な社会になると、この身体から切り離された所有観は、神や仏の後ろ立てがなくても、お金や権力による所有へと、変化していったのではないか。
「かつて神々は定まった姿をもつことなく、気ままに遊行を繰り返す存在だった。神は、祭祀の折りにだけその場に現れて、それが終了すればまたどこかに立ち去るものと考えられていた。」
そのような国家以前において、神は身体を持たず、身体を持たないがゆえに、それは、所有とは無関係な存在だったのではないだろうか。この本は、神国という考えの変化を追う本なのだが、その記述を縫うようにして、ぼくは、土地の所有について考えるところが多かった。

はじめに書いたが、この本は中世にポイントを置いてあり、古代において、その国家観を一般人はどう感じていたのか(特に、侵略された方はどう考えたか。資料もないのかもしれないけど)、とか、近代については、それほど詳しく書かれてはいない。そこらへんも、読んでみたいな、と思った。朝鮮と日本の古代の関係とかも気になる。
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by isourou2 | 2007-01-17 17:00


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