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さようなら、私の本よ!(大江健三郎)

ひさしぶりに読んだ、大江健三郎。久しぶりに読んだら、これは面白かった。このタイトルのように、というか、それがなぜ、さようなら、なのか、は謎だけど、いままでの大江健三郎の書いてきた小説と、この本の要素は、さまざまな響きあいをもっている。穏やか老後ではなく、老いていくことが突然の狂気をもたらすこと、おかしな二人組(それは、前は息子と父親、などだった)、血なまぐささ、アクチャルさ、などなど。若い二人の登場人物によって、無鉄砲さとその悲劇的な帰結、性欲の問題、など、も持ち込まれている。(が、印象は薄い)。特に、それを感じたのが、終章の前の突き放されたような読後感。この宙吊り感が、初期の小説の終わりには必ずあったと思う。それからの終章も、一区切りつけて蛇足のようなやり方も、大江の小説によくあることだった、と思う。だから、懐かしく今までの本を(といってもほぼ今は詳細を覚えてはいないのだが)思い起こさせる。それでいて、アクチャルさを失ってはいない。それは、自分に対する目の厳しさと、現状認識、の二つの要素がある。たとえば、映画監督の伊丹十造を模した登場人物の言葉として「古義人は小説家で、なにやらあいつ独自の書き方を工夫して、確かに在来の私小説とは違うが、面白くもない人生を、オーデンやらブレイクやら、引用沢山に書き続けるつもりだ。いまだって、アカリの誕生について飽きもしないで書いている。そんなことがどうして面白いものになる?。なぜ、まず面白い人生を生きないんだ。」「エリオットに感じ入っているように、見事に表現された哲学的な思いだけ、しびれるんだ。生を追想するようにして、感じ入っているんだ。小説を書くったって、その上での思いを書くだけだ。いかがわしいならいかがわしいなりに、実際の人生を生きることはない。高校生でもうあきらめていたんだ。そんな一生が何になる?。」。あと、大江の政治的なエッセイや評論を信用できない、とも言っていて、これだけいえば、大江批判としては、かなり部分言っていることにもなると思う。とすれば、よく言われることかもしれないが、作者としては、痛いことを自分の小説に書き込んでいることになるのではないか。
現状認識としては、「おれはね、東京でフリーターをやってる、見た目にはニューヨークの若い衆そっくりの連中のなかから、ある日、腹の据わった自爆テロの実行者が現れると、、、そのような時代だといいたい気持ちがあるんだ。」「この若い実行者のタイプはね、革命的なものであれ、反動的なものであれ、大義に動かされてなにかやるというのじゃない。煽動家に示されたテロの手法が面白いというだけで、それをやってしまう連中じゃないか、と感じる。」「この東京で連日、自爆テロが起こる、そういう時が来るのじゃないか?」というようなところだろう。この認識は、そんなにずれていないとぼくは思う。なんとなく思い当たるところもある。そういう小さな集団はいつ生まれてもそれほどおかしくない、という現状だと思う。ただ以前なら、その実行犯たちを主役にすることで、その内面のアクチャルさを描くことで、現状を描こうとするところだろうけど、それは、リアリティを持って今の大江には書けないだろう。そこで、小説に導入されるのが、主人公の老人に取り付いた、おかしなところのある若い奴、という存在(装置)。とすれば、そのおかしな若い奴をどれほど描けるかが、この小説自体のアクチャルさを保障するということにもなるだろうが、それがいささか心もとないところが、この小説の欠点になるだろう。だから主人公の作家が、テロの計画に半ば前のめりに巻き込まれていく、ということが、強い現実感を持ってこないうらみがある。だから、終章の前に、「自分の衰えた身体のうちに、あのおかしなところのある若い奴を手探りしたが、気配もなかった。」と突き放されて感じる失墜感には、この若い奴がなんだったのか最後までよく示されないうちに小説世界は閉じてしまったな、という失望感が何割か混じっている。それと関連して、大江には、老人の性とはどのようなものであるかを、(若い時に書いた性の主題とひびきあうようにして)その実相を正面からあからさまに描くということをしてもらいたい、と思う。たぶん、それが、そのおかしなところのある若い奴が老人にとって何なのかを明らかにしていく一つのやり方だろうと思うから。
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by isourou2 | 2007-05-17 17:04


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