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幻化の人・梅崎春生(遠藤周作 現代日本文学体系80 筑摩書房)

梅崎春生という作家を知ってほしい。
これは、文学全集(椎名麟三と梅崎春生の巻)の解説で、遠藤周作が書いたものだ。遠藤周作は、問題にならない。問題にもならないが、遠藤が書いたこの解説は興味深い。おそらくは、遠藤の文章としても最良のものではないかと思う。
長くに渡る、遠藤と梅崎の付き合いが、出会いから現在(昭和39年)まで描かれている。ここに描かれた梅崎なる作家は、実に奇態である。デビュー前の遠藤を占い師のところに連れていき、よく当たる、と言い含めた上で、占い師から次々に不快な予言をさせる。させる、というのは、おそらくは梅崎が裏で糸を操っているからである。芥川賞をとった遠藤の家に、通りがかりのファンの女性(女優)として酒を酒屋に配達させる。しかし、それはじつは安物の醤油である。その後に、届け物について電話をする。しかし、梅崎は、自分ではないと言い張る。
随分と念の入った「イジワル」である。なぜ、こんなことを当時は、うれている作家である梅崎がするのか。酔って、夜更けに電話をかけてきて、遠藤の女房が出ると「早く別れてしまえ」といい、女中が出ると「そんな月給の安い家なぞ出てしまえ。」と吹き込む。しまいには、電話がかかってくると遠藤の子供が泣き出す様になる。そんな梅崎から、蓼科の別荘を紹介してもらい一夏を一緒に過ごす遠藤も、どうかしていると思う。梅崎は、蓼科大王を名乗り、遠藤を呼びつけては酒の相手をさせる。もちろん、お酒を飲まぬ平生な梅崎は限りなくやさしかったそうだし、みじめな境遇にある時はなおさらだったようだ。しかし、このような人が酩酊していない時間は概して短いし、また、苦境に対しての優しさも優越感とも幼児的な支配欲とも受け取れる。先輩作家に対する遠藤の遠慮としても度が過ぎている。むしろ、この度がすぎた関係を継続するために、先輩・後輩という形式を必要としているかのようだ。端的にいえば、この関係は、SMに似ている。その趣味のない人間には、理解がしにくいのも同じだ。たしか、遠藤の晩年の小説には、SMを主題にしたものがあったと思う。遠藤は、自分の子供が梅崎の別荘で粗相してしまったことのお詫びに出かけて、泥酔した挙げ句、自分も失禁している。これは、文士の無頼なエピソードというよりも、ある種のプレイのようである。それはともかく、このにっちもさっちもどうにもならない関係性、そこにおいてしか生を係留できないという意味では、うとましいと同時に切実に要求するものである関係性、それが梅崎文学の主題である。そして、それが梅崎の実生活から直接生まれ出てくるものであること、それが梅崎文学の生々しさであることをこの遠藤のエッセイは物語っている。また、そのような関係性に感応する者に、時に関係が逆転しながらも形式を反復し伝播していくものであることをこのエッセイは示してもいる。
最後に、遠藤は、「健康的にもすぐれぬせいかあまり元気がない」梅崎に対して、「蓼科翁」と手紙を出すと書いている。「彼が蓼科翁ではなく蓼科王に戻ることを願いながら。」
梅崎文学は、間違いなく抜群に面白い。梅崎文学に感応する時、読者は、にっちもさっちもいかない自分たちの関係性が現前することをユーモアと悲哀をもって感じることと思う。
(梅崎春生は、戦後派文学の第一人者、として人気のあった時期はあったようだが、現在では、全集の形でしか、ほとんど読むことができない。それは、ある意味、とても梅崎的な事態の招来にも思えるのだが、残念なことである。)
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by isourou2 | 2011-04-16 23:31 | テキスト

四間飛車のポイント(大山康晴 日本将棋連盟)

顔がいい。私は、大山康晴の顔がいいと思うものである。ド近眼を想起させる瓶底眼鏡を適度にふくよかな顔にめり込ませ、だんご鼻に頭はハゲ。いつも和服。ビジュアルが最高。棋士にはくどい個性がほしい。そういう意味では、腕を競った兄弟子の升田幸三も気になる。いくら羽生が強くても、本は読む気にはならない。そして、羽生の人生訓にはそつがない。そこにくると、大山康晴の文章には、アクがあり油が浮かび肉厚なところがあるが、しっかりした味がある。大山の味は、単なる棋譜の解説のこのような本にこそある。つまりは、将棋という制限された宇宙のみにきっちりと人生を定立させているのである。盤外に対する才気走った横目などはない。そこにおいて、大山のアクや油は、逆に清冽なものを感じさせる。

四間飛車は、大山の得意とした戦法であるから、自然と解説にも熱が入る。
「形をみても、振り飛車は泣いている感じだ」
振り飛車が泣いているのだ。
「攻めて、攻めて、勝勢を確立するのは、むろんよいが、受けて、受けて、もう負けなし、の形をつくるのも、劣らぬうまい勝ち方である。」
大山の色紙には「忍」の一文字。振り飛車は受けの将棋。しんぼう、という言葉も頻発する。
「必死にしんぼうして、後手の攻めがとぎれるような差し方をしなければならない。」「シャレた手で勝とうの考えは、あまり感心しない。」
「しかし、相振り飛車なんかは経験もないし、わしゃいやじゃ、というなら、」
いきなりの「わしゃ」の登場だが、受け役を語る時、思わず、はしゃいじゃう大山が、かわいい、と理解すべきところだろう。
しかし、
「ふと、誘惑されるような手は成功しないときが多い」
と自重することも忘れてはいけない。
「がまんすべきは、がまんする、の決意が大切だ。」
でも、
「この形なら、「さぁいらっしゃい」と膝を叩いてもよい。」
とくると、ここ何の店?、とも聞きたくなるが、
「一度だけの王手に目がくらんではいけない。」
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by isourou2 | 2011-04-15 23:34 | テキスト


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