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介助者たちは、どう生きていくか(渡辺琢 生活書院2011)

違う図書館から取り寄せて、しかもぎりぎりまで読まずに放置していたため、早く返せ、と電話がかかってきて、そして、慌てて読んだ。そのために、今手元に本がなくて、かなり曖昧な記述になってしまうだろう。すいません。
なかなか読まなかったのは、大儀そうだなぁ、という本の印象と、だいたい知っていることじゃないかな、という思いこみのためだったが、読んでみると、これは読みやすい上に、よくまとまった一冊だった。ここでの介助者というのは、ほぼ、自立生活(というのは特殊な用語だろうか。要は、施設でも親元でもなく地域で暮らすということ)している障害者(それも主に身体障害者)を支える仕事をしている人たちが対象になっている。いうまでもなく、介助の仕事全体からみたら、一部である。また、このような障害を持った人の運動を中心にして、その他の介助を必要としている人の運動を周縁に位置づけていいものかどうかはよく分からない。しかし、この身体障害者の運動、そして介助のことを考えることの意義の深さは間違いなくある。
そのための材料の多くは、この本に書かれてある。

この本の介助が、身体障害者の自立生活の介助になっているのは、端的に著者がそれに長く関わっているからである。だから、これは学者の書いた本ではない。実感や体験に裏打ちされ納得したこと悩んでいることに即して書こうとしている。(そうでない部分は、きちんと断りを入れている。)障害者運動や介助の歴史や、現在の制度についてよくまとまっているという以上のこの本の意義はそこにある。つまり、歴史や制度を踏まえることと介助を続けてきたことの実感を両輪にして、そこから介助についての展望と議論の継続を投げかける、というところが特徴になっている。

介助者というのは、不思議な存在だ。いや、存在は不思議ではないだろうが、その存在感は掴みづらく見えるのではないだろうか。ぼくも、介助の仕事をはじめた頃、介助者たちのただづまいに奇異の念を感じたものだった。障害者に影のように付き添い自身の存在は消すことに専念しているという感じ、、。亡霊といったら言い過ぎか。支援費制度がはじまる前だったから、2002年くらいだろうか。それから、介助者たちのたたづまいも変化したけど、大枠での印象は変わらない。そして、仕事を続けていく中で、そのような在り様であることの必然性というのも理解はしていった。待つこと、先走らないこと、見守ること、などは高度な態度であり技術でもある。それは、相手の力をどうやったら奪わないか、ということの帰結の一つであり、それは、これまでそして現在の社会に散々力を奪われてきた人たちを支えるあり方としては、自然な態度の一つである。そして、それは、相手(障害者など)の言ったことだけをやればいい、という機械的な態度とも、ちょっと違うのだと思う。その違いというのが大切なのだろう、、と思う。それは、介助をするにあたって、障害者運動やそこで考えられてきたことを踏まえる(社会と障害者の関係を踏まえる)ことと、単に仕事としてやる、ことの違いでもあるかもしれない。

しかし、自立生活センター(ILセンター)で介助の仕事を8年くらい細く長くぼくはやったのだけど、それはやはりどこまでいっても「仕事だよなぁ」だった。つまりは、仕事(賃労働)にまつわる不全感や気楽さがついてまわった。仕事である、ということが障害者の自立生活を支え、障害者運動を支えるシステムの一部であるということを意識はするものの、現実、目の前にあるのは、「仕事だよなぁ」、である。
ぼくの働いていた事務所は、ILセンターでもアメリカ型の方に属していたためかもしれない。(その割には、労働法が守られていなかったので問題になったのであるが。)
待つ、見守る、先走りしない、などは、その歴史や意義などを省捨してしまうと、サービス業のあり方と親近性が高い。運動の中で言われた「介助者は障害者の手足になりきる」(手足論)ということも、その言葉の成り立つ複雑な(支援者と障害者の相克など)な経緯を無視したら、普通のサービス業のあり方と変わらない。そして、実際には、そうなっているし、多くの事業所や制度もそれを後押ししている。そこでは、歴史や経緯や個々の障害者の思いなどは、意識しないでもいい形で介助が成立している。だから、ますます、介助をやる方は「仕事だよなぁ」と思うことになる。ある意味、介助がふつうのサービス賃労働になったということは、障害者運動の大きな結実である。もちろん、サービス業的な介助のやり方についての疑念を唱え、ちがうあり方を模索している一群の障害者たちがいて、それらの主張に多くの記述をさいているのも本書の特徴ではある。しかし、おおむね、介助のサービス業化は、運動の帰結としても行政の方針としても進んでいる。そうなると、当然、介助に、賃労働一般の問題がより顕在化してくることになる。

この本では、労働者と障害者、の関係についても書かれている。一つは、労働者の権利ばかり介助者が要求すると、障害者の生活が制限されることになるという懸念である。たしかに、現状の労働基準法と重度訪問介護という多くの自立生活を送る障害者の利用する制度とは、折り合いの悪いところがある。制度だけではなく、そもそも行政から降りてくるお金が足りないために、労働者としての権利を保証できないということがある。それに対しては、著者たちのやっている「かりん燈」という介助者の組織は、事業所ではなく厚労省などの行政に対して要求をする方法をとっている。
もう一つは、労働者が「労働強化」になることを理由にして、障害者(運動)の要求に対して理解ある態度を示してこなかったことがあり、また労働運動(春闘とか)に障害者運動がいいように利用されたという、経緯がある。
しかし、この本では、あまり大きく触れられていなかったようだが(曖昧、、違っていたらすいません)、より重要だとぼくが思うのは、初期の障害者運動(一部の青い芝の会など)では、賃労働をすることの否定、あるいは、労働概念の著しい拡張、が言われていたことだ。つまり、(これもちょっとウロ覚え、、)、資本主義の社会にあって障害者は生産性のないものとして差別され排除され、仮に賃労働をしても劣位におかれた労働者にすぎない。そこで、賃労働をするための無理な努力をする(させられる)のでは、救われない。この賃労働をすることを優位に置く考え方を根本から改め、もしくは労働を障害者がパンツをはきかえることを重労働と認めるくらいにラジカルに捉え直し、社会を変革するべきだ。というだいたいの要約すると、こんな感じの主張があった。
ぼくとしては、これは大変魅力がある考えで、この地平で考えていくときに、障害者と労働者の相克するような関係から脱するのではないかとも思ったりする。賃労働の否定、労働概念の拡張、などは障害者だけに適用するのではなく、介助をする側にも適用しようと考えた時、そこからどういう社会やあり方が見えてくるのかということを多様に考えたいというところがある。

本書の中に、友達のふりを仕事としてする、という介助者の言葉があった。まさに、サービス業として介助は「感情労働」の性格がこれから強まってくるのだろうと思う。そうなってくると、本書で管理型と呼ばれている事業所だけでなく、共感型と呼ばれている事業所も下手すると、共感の内実は「感情労働」のスキルが多く求められる仕事、ということにもなりそうだ。仕事というバーチャルな人格に囲まれる生活は、移動する施設(という言葉もこの本のどこかあった)、とも言えるが、逆にバーチャルではない関係や環境とはどこにあるのだろうと思ったりもする。バーチャルなものしかないにも関わらず、そうでないものをリアルなものとして希求するという勘違いが人間の情熱の源泉だとすると、どんなに高度に管理されてもそれを喰い破ろうとする動きは起こるだろう。そこに賭けるしかないようだ。勘違いが根底にあるだけに、それは失敗の色が付かずにはおれない。やはり、青い芝の会の「解決の途を選ばない」という綱領は大切だ。うまくいくことでも同じ失敗をすることでもなく、失敗の歴史をより高めていくことを目指すのがいいのではないだろうか。
なんだかおかしな結論に到達したところで、とりあえず、本書を読んでの感想を閉じたいと思う。
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by isourou2 | 2011-09-05 01:54 | テキスト


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