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「生活者」とはだれかー自律的市民像の系譜(天野正子 中公新書)

「生活」というエレファントカシマシのアルバムがあったような。やたらに、ボーカルの音圧(音量)が大きかったことを覚えている。たぶん、通して聞いたことはない。
しかし、このバンドには、文人気質があり、そこで描かれる生活とは、何かに破れた後に発見される日常、という趣きであった。それは、単身者、もしくは、時流に乗れずに孤立している若者、の視点であったと思うが、太宰治にあっては、発見されたのは「家庭」「市民生活」だったこともあった。
この本には、もちろん、エレファントカシマシも太宰治も出てこない。
しかし、働いて食べて寝て、みたいなことを生活と呼ぶのならば、それは誰もがしていることで、ことさらに、言葉にしなくてもよい。
生活、というのは、何かとの対比において、そして多くの場合、その何かが破れたり危機に陥ったりしている時に、改めて意味をもって浮上してくる概念なのである。
だから、それが言われた時の状況の中に、その言葉を、その言葉を使う人の意図の元に再現することをしないと、意味していることは分からない。
この本は、そういうことをしている。
対比しているものに対して、生活、という言葉にこめられている思いは、それが「永遠の相貌」を持って現れるということである。
たしかに、働いて食べて寝て、などという繰り返しは、これは人間であるかぎりは、永遠、である。
しかし、それがそう意識されるのは、「永遠ではない」という思いが、対比されているものに対してあるためだ。
そして、生活を永遠である、と意識することに重点を置くのは、対比されているものに対する牽制でもあり、浮き上がる凧に重石を下げるようなことでもあり、畢きょう、先鋭的な思想にはなりえない。
そのためもあり、この本でとりあげられている様々な人たちの一般的な評価は様々であっても、どことなくパンチが足りない、、というか、ぼくにとって、物足りない感じがあった人たちである。
その中で、今和次郎は、ある意味例外的であるが、彼も赤瀬川原平などの鋭い着眼により再評価がなければ、これまた地味な存在になっていた可能性もある。
そういう人たち、知っているけどなんとなくよく知らないみたいなところが、ぼくにとってあった人たちに対する解説書としても、この本を読んだ。
そして、それは、おもしろかった。
何かの対比として、生活の浮上、があるにしても、もちろん、その先がある。
その生活の中に、その何か、あるいは別の何かを、代入するという作業である。
生活に対比されるような何かではなく、生活と何かを表裏一体に結合する地点の探求である。
この本で取り上げられていて、興味深かったのは、生活クラブ生協、の活動である。
ぼくの中で、生活クラブ生協、の印象はすこぶるいい。
数少ない生活クラブ生協の直営店(基本が宅配のため)の近くに居候をしていたことがあり、その店を愛用していた。
とにかく、その店の豆腐がうまかった。あれほどうまい豆腐を、たしかにグレードアップをスーパーの豆腐がしているにしろ、今までに味わったことがない。しかも、それは決して高くはなかった。
そして、店の雰囲気も、ある活気とざっくばらんさがあり、なんとなく行くとうれしくなる感じがした。
生活クラブ生協の活動については、この本の白眉である。
そこだけでも読んでみたらいいかもしれない。
そして、豆腐がうまい。
本当に。
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by isourou2 | 2012-01-17 00:57 | テキスト


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