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ルポ過激派組織IS ジハーディストを追う(別府正一郎 小山大祐 NHK出版2015)

国際情勢にうとい。テレビ・新聞を見なくなってから10年以上はとっくに過ぎている。ラジオもFMをたまに聞くだけ。ネットでニュースを見たりすることもない。いろいろと社会/政治運動に関わっているので「活動家」みたいに見られている節もあるけど、ぼくが関わっていることは狭い範囲でしかない。というか、狭い範囲=自分の肩にぶつかっている問題以外はなるべく取り組みたくないと思っているのだ。それでも、そのようなことに忙殺されている。ほとんどニュースというものは(自分の観点において)それほど自分の問題として優先して考えるべきものではない。世の中で話題になっていることも数日遅れで人づてに入ってきたり、まるで入ってこなかったりだが、困った気はしない。
図書館で天気を見ようと新聞をのぞいたらパリでテロのニュース。情報は書籍を摂取したいので(図書館にいたし)なるべく最近出たものを読んでみることにした。
ちなみに、今年の5月にギリシャ(アテネ)に2週間ほどいた時に、町の中心部の広場に寝泊まりしているシリアのおじさんのところに何回か訪れた。敷石とコンクリートの広場に低木が少しだけ植えてあり、その木陰に10人近くの移民が寝泊まりしていた。幼児もいて木にはたくさんのおもちゃがデコレーションしてあった。広場には水場もトイレもなく、病気を抱えたおじさんはとても不便そうであった。アラビア語を解さない自分は、どういう事情でここにいるのかもよく分からなかった。そういうことも気になっていた。
社会的な問題が冷めないうちに急いで出版されるルポルタージュにはだいたい同じ感触がある。文体に飾りも特徴もなく構成が凝っていない。時間との勝負という出版的な要請が、物事の緊迫度を表している。それで充分だから同じような匂いを発しているのだ。だから、この単刀直入なタイトル。過激派っていう言葉の使用とかに躊躇はない。分かりやすいことが大事だから。そして、たしかに内容は分かりやすかった。スンニ派とシーア派の内部抗争だったことも初めて知った(そういうレベルの知識しかなかった)。だからといって、もちろんスンニ派やシーア派の教義上のちがいやイスラム教についてこの本に深く書かれているわけではないのは言うまでもないだろう。
それでも、ぼくはこの本のアングルに教えられるところはあった。
ヨーロッパの若者たちもISなどに参加するためにシリアやイラクに義勇兵として3000人以上渡っているらしい。彼らの動機についての著者の分析は、家庭環境だ。ドラックやアルコールやギャンブルの問題を両親が抱える中に育った彼らは、それらを厳しく日常生活の規律として罰しているイスラム教に魅力を感じるのだという。刑務所でイスラム教に改宗した若者(この本によると刑務所内が宗教の感化・勧誘の場所になっているという。マルコムXの改宗も刑務所だったから、昔からのことだと思うが)の言葉では「イスラム教は、俺の心は平和にし、100パーセント本気で信じることができた。純粋なライフスタイルを与えてくれたし、悪に満ちている俺の生き方を変えることができた。キリスト教には、こうした生き方の指針がない」。
貧困と依存症が重なっている領域においてイスラム教(法)が有効に作用しているということだ。左翼は貧困の問題には取り組んでいるが、依存症の問題はほとんど通り過ぎている。それは医療分野ですらなく、宗教が主に担っている。たとえば、アルコール依存をはじめとする依存は医療的には治癒が難しく、それは専ら互助グループの活動が有意の実績を持っている。そして、AAなどの治癒プログラムにおいては、キリスト教的なハイヤーパワーというものが基礎になっている。そもそも、教会でミーティングが開かれる場合もある。また、欲望を絶つことで心の平和を志向し、出家などで世俗と距離を置く生き方をする仏教にしても、それはある種の依存症対策である。
宗教における男女関係の扱い方にしても依存症対策と捉えることが出来る。おそらく、それらの点においてイスラム教は徹底した志向を持っているのだろう。そして、依存症対策で行われることは、依存症者にとっては依存状態からの「解放」だが、依存症を持たない人から見て、つまり他の観点から見て、それは「自由」を失っているように思える。そこには認識の深刻な距離がある。そして、それを押しつけるには権力が必要になり、押しつけられた方にとっては暴力になりうる。
また、純粋を志向する人に対して、純粋であることの危険や不可能を説いてもあまり意味がない。なぜなら、それらの多くの人は、そのような場所に追いつめられているからである。そうせざる得ない自身の悪や不純を(それを説く人よりも)よく知り、他に手がないと感じているから、純粋を志向しているのだ。
依存症は、社会の問題と個人の問題を結びつける時の切り口として非常に重要だと思う。そして、それは信仰や宗教のシステム(組織)が持つ意味がクローズアップされる領野なのである。この本から示唆を受けたことはぼくにとってはそういうことだった。
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by isourou2 | 2015-11-23 22:09 | テキスト


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