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心理(荒川洋治 みすず書房2005)

面白い詩の言葉に触れたい。そういう思いがたまに高まりをみせる。図書館で手あたり次第に詩集を開いてみる。ほとんどの詩集を、ぞっとして閉じる。今回、借りたのは、この「心理」と前に借りて全部読まなかったけど良かった川上未映子「水瓶」。名前を忘れたけど、解説を吉増剛増が書いている詩集。これも良いようだったけど、貸し出し数を超えるので借りられなかった。そもそも吉増さんが解説を書いている時点で、少しがっかりしたのだ。というのは、幾分、吉増さんの詩に近いから解説をしているわけで、吉増さんの詩に近いところがあるのならば、吉増さんの詩を読んだ方が大体はいいからだ。吉増剛増の70年代の詩集があれば、日本の現代詩はほとんど不要なのではないか、という気がする。もちろん、伊藤ひろみさんの詩は、吉増さんとはちがう領野において優れているのだし、他にもすばらしい詩集はあるのは知っているのだが、詩人ではないけど土方巽の言葉とかを除けば、まぁ無くてもそんなに困らないというか、吉増さんの70年代の詩でだいたい間に合うという感じがする。つまり、それをはっきり凌駕する広大な詩脈というのは現れていないように思うのだ。吉増さんの詩の書き方は、本質の近似値を叩きつづけることで読者を打ちのめすボクサーのようなやり方で、非常に圧力を持った高い打点ながら必殺の一撃ではないから、それが延々と続けられ(続き)、読者はほとんど頭をくらくらさせながらも疲労していくのが読書体験になる。必殺の一撃を求めながら、実は求めず、ずらしていくこのやり方は詩人としての体力が必要で、それにもっとも耐えたのが吉増さんで、やはり圧倒的である。本質を求めつつ求めないというのは、言葉を豊富にする。本質を求めるのは一語に結実するやり方である。その豊富さに耐ええるのも詩人の力量である。
いずれにせよ、言葉の打点が高いことが詩には必要で、だいたいが、たいていは1ページにおける文字数も少ないわけで、そこに俗に流れた言葉が書いてあると、その余白の白さ具合が目に刺さるようで、純化されるべき言葉の結果に表された作者の意識の低さがこちらに迫ってくるようで、いたたまれないから、ぞっとするのである。詩の言葉は、小説のように物語や文脈や事実などの道具になることで保護される割が少ないし、もちろん論文のような論理によって保護もされていないことが多いので、つまりはむき出しの言葉である。そのむき出しにされた裸の言葉たちは、様々な衣装によって粉飾されていない分、その美醜が問われざるえないし、そういうリングが詩の舞台なのである。
あまりにも前置きが長くなって疲れてきたけど、まだ途中までしか読んでいない「心理」と題された詩集には、そのような俗に流れた言葉はほとんど1つもないようだ。平俗な言葉で書かれているけど、おそらく慎重に、すぐに了解できるような言葉はほとんど省いている。
感情のあり方も了解できない。なんで、このようなことが書かれてあるのかもほとんど分からない。難解な言葉はないけど、それらの言葉の打点は見えなくて、どこを殴られているのか分からないけど不思議なダメージはある。というか、この詩集の体裁は一体なんだろう?。みすず書房という心理学や哲学や社会学などでなじみのある出版社から、それらの装丁と同じような感じで出されていて、荒川洋治という名前を知らなければ、心理学の本だと思わざる得ないだろう。そして、それが何を意図しているのかが分からない。隔絶したところにあって、意味は届かないけど厳然と存在する。この詩集の言葉もそうなのだけど、詩集の体裁も同じである。あとがきには、こうある。「心理は、ときどきの人の心からは、遠いものかもしれない。また、まわりにあるものをうけとめながら、うけいれない。そんな一瞬あるいは長引くものを、人はかかえることがある。題を「心理」とした。」なんとなく、え?と思わないだろうか。心理についての説明は、なぜこのような捉え方をしたいのか掴めないけど、まぁ意味は分からなくもないだろう。でも、なぜ題を心理としたのかは結局分からない。断言だけだ。しかし、この文章にしばらく留まってみると、にじむように了解してくるものがある。つまり、え?と思って次ぎの思案(ページ)に移らずに、え?を誘因としてそこに留まってみれば、何か了解されるものがある。そして、そのような機構はここに書かれてあることそのものであることに気づく。つまり、方法論の説明を、その方法論で書いていて、メタレベルがないために分かりにくい。メタレベルがないというのは、構造化していない(拒否している)ということで、この詩集の言葉も、そのように構造化する前の言葉も掬い取っているように思える。だから、これはシュールなものだとも言える。でも、いわゆるシュールリアリズムみたいな詩法とは違っている。強い自意識の表裏にある無意識から取り出され、結局は自意識の美醜のフィルターで濾過された言葉というよりも、ここでは他人の言葉や記号化された言葉が入ってきて、なんらかの内面での変形を受けたり、はっきりと形づくるに至らないような感情の泡立ちなどが、たゆたっているような場所に接続しようとしている。強い像を結ぶ前に立ち消えてしまうような言葉に留まろうとしている。非常に平明な明るさを持っているけど、それは<死>や<虚無>よりも<生命の枯渇>に近い。老境の詩である。ここには、本質を求める言葉も、そこからずらしていく言葉の連なりもない。枯山水に流れる水音に耳をすまし続けるような持続があり、そこにも異なった詩脈が存在していた。

*ちなみに、まだあまり読んでない。全部、読まなくても感想を書きたい時に書くことにしようと思う。だいたい、全部、読む本はほとんどない。
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by isourou2 | 2016-11-13 00:20 | テキスト


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