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料理本の世界

いわゆる趣味・実用というジャンルの中では、英語学習本と並んで、料理本にはけっこうな関心がある。特に、文字主体の料理本が好きなのである。それは、レシピとエッセイのあわいである。単なるレシピにおいては、さすがに読後感はないが、かといって料理エッセイになってしまうと実用性にかける。その中間。常々思うのは、料理本において写真というのはどれほど必要なのか。結局、作るとき参考になるのはレシピだけだし、写真がないと完成形が想像できない方はよほどの料理一年生以外はいないはず。写真が助けになる場合(たとえば、魚のさばき方とか)もあるにはあるだろうが、非常に限定される。料理本に写真が多用されるのは、端的にいえば、手抜きであり、穴埋めにすぎない。言葉をつくして説明すべき著者の労力を写真によってあいまいに省き、それじゃ紙面が埋まらないしボリューム感が出ないので大きな写真を入れましょうよ、と編集者が考えて一丁あがり。いや、猫の写真と料理の写真は、見てイヤな気分になる人などいない。おいしそうな写真、けっこうなのだが、写真が無駄に多いのは安直なつくりだと考えているので、ストイックに写真を制限した料理本の姿勢にぼくは魅力を感じるわけです。
その系譜というのは(といっても江戸とかそういう話ではなく)、ぼくの中では、壇一雄「壇流クッキング」とか、小林かつよ(最初のころ)とか、水上勉とか。もっと、渋いところはいろいろあるのだろうが(そんなに詳しいわけではないので)、この流れとしては、とりあえず魚柄仁之助とか奥薗壽子が思い浮かぶ。
そこで、奥薗壽子の本をやすかったので、メルカリで数冊購入した。「おくぞの流簡単激早ぴちぴちお魚おかず202」「おくぞの流簡単激早たっぷり野菜おかず229」「別冊すてきな奥さん 奥薗壽子のアイデア料理決定版 ラク!うま!韓国ごはん」である。
そして、思ったことは、料理の写真が多いどころか、奥薗さんの笑顔の写真が多い!。笑顔の多発。一冊だけだとそうも思わないが、三冊重なるとさすがに笑顔の過食である。もちろん、猫の写真と料理の写真と笑顔の写真は見てイヤな気分になる人はいない、のは分かる。奥薗さんの笑顔もすてき(な奥さん)ではある。たしか、奥薗さんがズボラ料理なまくら料理として登場した時の本は、テキスト主体だったと思うが、このような写真を中心にした本を濫出してもいたのだろう。
最近の奥薗さんの本は、写真はあっても笑顔は抑制されている。ちなみに、韓国ごはんは奥薗さんのソウル食べつくし紀行つきであり、それも笑顔の乱反射であり、一種の奥薗写真集の趣きもある。
そう思うと、テキスト・写真という対立軸とともに、料理本において、笑顔・渋面、という軸の存在も感じられてきた。壇、水上は渋面だろう。笑ってほしいというニーズもあんまりないはずだ。どっちが好きか。小林かつよはたぶん笑ってもいるだろうが、ケンシロウほど破顔ではないはずだ。どっちが好きか。うーーん。やはり、どっちかというと、日常的には笑っている方がいいのかもしれないけど、料理においては求道的姿勢を尊しとしたい。求道的といえば、忘れてはいけない魯山人もいた。魯山人に、もっと笑顔くれませんか、とカメラマンも注文しがたい。ただ、でも、そんな人と一緒に食べるのは肩が凝るだろう。難しいところだが、奥薗さんも乾物などを勧める姿勢は笑っていないし、笑顔の多発は一種の戦略なのかもしれない。料理のおける真剣さは、テキストにおいて表れる。とりあえず料理本に笑顔の写真はいらないと思う。もちろん、渋面の写真もいらない。

by isourou2 | 2018-07-04 00:08 | テキスト


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